本記事では、「航空管制官を目指したい」「受験勉強を始めたばっかり」という人を対象に、航空管制官採用試験の難易度を徹底解説します。
結論から言えば、航空管制官になる(=試験に受かる)ことは思っている以上に難しいです。
今回は、大学を卒業したら航空管制官として働きたい方に向けて「受験マニュアル」を作る気持ちで書きました。最後まで読めば、採用試験の概要から合格に向けた準備まで行うことができますよ!
敵を知らずして対策を始めてしまうのは、正直無謀です。本記事を参考に航空管制官採用試験の合格に向けて着実に準備を進めていきましょう。
航空管制官採用試験の難易度が高い5つの理由
結論から言えば、航空管制官採用試験の難易度は高く、合格するのは簡単ではありません。
ここでは、具体的なデータを元に、その5つの理由を一つひとつ解説します。
- 倍率は高め
- 試験問題は大学入試レベルが求められる
- ボーダーラインは7割程度
- 全員は合格できない
- 人間性・コミュニケーション力が求められる
理由1:最終倍率が他の国家専門職より高い
航空管制官採用試験は、同じ国家公務員専門職の中でも、最終合格倍率が高い傾向にあります。
2024年に実施された令和6年度航空管制官採用試験の最終倍率は3.5倍でした。同じ国家専門職の国税専門官2.5倍や財務専門官2.8倍に比べて高いことがわかりますね。
- 航空管制官:3.5倍
- 国税専門官:2.6倍
- 財務専門官:2.8倍
このように、航空管制官採用試験は、数多くの受験者の中からごく一部しか合格できない、厳しい競争であることがわかります。
倍率の高さがそのまま難易度に直結するわけではありませんが、多くの優秀なライバルに打ち勝つ必要があることは事実です。
▼航空管制官の倍率が知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
理由2:合格ボーダーラインが7割前後と高水準
合格に必要な得点率、いわゆるボーダーラインが高いことも、難易度を押し上げている一因です。
年度や試験の平均点によって変動はありますが、航空管制官採用試験の一次試験合格には、素点でおおむね6割〜7割程度の得点が求められます。
他の国家専門職では4割〜5割程度がボーダーとなる試験も多い中、航空管制官はより高いレベルでの戦いになります。
幅広い試験科目でまんべんなく高得点を取る必要があり、一つでも大きな苦手科目があると合格が遠のいてしまうのです。
▼航空管制官のボーダーラインが知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
理由3:高度な英語力が多角的に問われる
航空管制官の業務では英語が公用語であり、採用試験でも非常に高度な英語力が求められます。
特筆すべきは、その評価方法が多角的である点です。
- ■ 筆記(多肢選択式):大学入試の二次試験レベルの読解力が問われます。
- ■ 聴解(聞き取り):大学入学共通テスト〜英検準1級レベルのリスニング能力が必要です。
- ■ 面接(英語面接):知識だけでなく、実際に英語を運用する会話能力が試されます。
これら「読む・聞く・話す」の3つの側面から英語力を厳しくチェックされる点は、他の公務員試験にはない大きな特徴であり、専門性の高い難しさと言えます。
理由4:人命を預かる特殊な適性が厳しく問われる
航空管制官には、学力だけでは測れない特殊な能力が不可欠です。 そのため、採用試験では航空管制業務に特化した「適性試験」が課されます。
- ■ 適性試験Ⅰ部:記憶力や空間認識能力などをマークシート形式で測ります。
- ■ 適性試験Ⅱ部:シミュレーションを通して、変化する状況への対応力や判断力を測ります。
これらの試験は、膨大な情報を瞬時に処理し、冷静な判断を下すという、実際の業務で求められる資質を見極めるためのものです。
単純な知識の暗記だけでは対応できないため、付け焼き刃の対策が通用しない難しさがあります。
理由5:学力だけでは測れない人物評価の比重が高い
最終合格を勝ち取るためには、面接試験で高い評価を得ることが絶対条件です。
航空管制官採用試験では、二次試験で実施される「人物試験(個別面接)」が、全体の配点比率の25%を占めています。これは一次試験の外国語試験(多肢選択式)と並ぶ最も高い配点です。
さらに、この人物試験はA〜Eの5段階で評価され、「C評価」以上でなければ、たとえ筆記試験の点数が満点でも不合格となってしまいます。
人命を預かるという極めて重い責任を担えるか。そのストレス耐性、協調性、そして何より冷静沈着な判断力といった「人間性」が、点数以上に厳しく評価されるのです。
【航空管制官採用】一次試験の内容・傾向と対策
航空管制官採用試験の一次試験は、主に公務員として必要な基礎学力と、航空管制官に求められる語学力・適性を測るための関門です。
| 試験科目 | 配点比率 |
|---|---|
| 基礎能力試験 | $$\frac{2}{12}$$ |
| 適性試験 | $$\frac{2}{12}$$ |
| 外国語試験 (聞き取り) | $$\frac{1}{12}$$ |
| 外国語試験 (多肢選択式) | $$\frac{3}{12}$$ |
試験科目ごとに内容を詳しく見ていきましょう。
基礎能力試験
基礎能力試験は、いわゆる「教養試験」にあたる科目です。
公務員として働く上で必要な、論理的思考力や数的処理能力、文章読解力といった基礎的な知能を測ることを目的としています。
基礎能力試験の概要
| 試験時間 | 110分 |
|---|---|
| 問題数 | 30問 |
| 出題形式 | 択一式 |
基礎能力試験の傾向
試験は、思考力を問う「一般知能分野」と、知識を問う「一般知識分野」から出題されます。
令和6年度から試験内容が大きく変更され、従来の歴史や地理といった科目がなくなり、知能分野と社会科学系の時事問題・情報分野に重点が置かれるようになりました。
- ■ 一般知能分野:数的処理、判断推理、空間把握、資料解釈、文章理解(現代文・英文)
- ■ 一般知識分野:自然・人文・社会に関する時事、情報
出題の中心は、全体の約7割を占める「一般知能分野」です。
基礎能力試験の対策方法
対策の鍵は、出題数が多く、かつ他の科目の土台にもなる「数的処理」と「文章理解」です。この2科目を最優先で固めましょう。
知能分野は、解き方のパターンが決まっている問題がほとんどです。 市販の過去問題集を繰り返し解き、解法パターンを体に覚えさせることが最も効果的な対策となります。
時事問題については、日頃から新聞やニュースアプリなどに目を通し、社会の動きに関心を持っておくことが大切です。
▼より詳しい基礎能力試験の傾向や対策方法を以下の記事で解説しています。
適性試験Ⅰ部
適性試験Ⅰ部は、航空管制業務に不可欠な、記憶力、空間認識能力、情報処理能力といった特殊な資質を測るマークシート形式の試験です。
知識を問う試験ではなく、生まれ持った能力や素養に近い部分が試されます。
適性試験Ⅰ部の概要
| 試験時間 | 45分 |
| 問題数 | 60問 |
| 出題形式 | 択一式 |
適性試験Ⅰ部の傾向
- 「方位や飛行ルートを短時間で記憶し、照合する」
- 「複数の計器の数値を記憶する」
- 「立体図形を認識する」
といった問題が出題されます。
一つひとつの問題の難易度は高くありません。 しかし、試験時間に対して問題数が非常に多いため、いかに速く、かつ正確に解答し続けられるかというスピードと集中力が求められます。
適性試験Ⅰ部の対策方法
この試験は「慣れ」が非常に重要です。
対策としては、市販されている航空管制官採用試験専用の問題集や、過去問(試験問題)を活用しましょう。
必ず時間を計りながら繰り返し解くことで、独特な問題形式に慣れ、自分なりの時間配分やペースを掴むことが合格への近道です。
外国語試験(聞き取り)
英語のリスニング能力、つまり「聴解力」を正確に測る試験です。
外国語試験(聞き取り)の概要
| 試験時間 | 40分 |
|---|---|
| 問題数 | 10問 |
| 出題形式 | 択一式 |
外国語試験(聞き取り)の傾向
合格者27名にヒアリングしたところ、試験レベルは大学入学共通テスト〜英検準1級程度とのことです。
空港や機内で流れるようなアナウンスや、登場人物間の短い会話を聞いて、その内容に関する問いに答える形式が中心となります。
外国語試験(聞き取り)の対策方法
日頃から英語の音声に触れる習慣が何より大切です。
特に、聞いた英語を少し遅れて影(シャドー)のように復唱する「シャドーイング」は、リスニング力向上に非常に効果的なトレーニングとして知られています。
外国語試験(多肢選択式)
英語の長文読解力、文法・語彙の知識など、総合的なリーディング能力を測る筆記試験です。
配点比率は25%もあり、一次試験の中で最も重要な科目と言えます。
外国語試験(多肢選択式)の概要
| 試験時間 | 120分 |
|---|---|
| 問題数 | 30問 |
| 出題形式 | 択一式 |
外国語試験(多肢選択式)の傾向
- 英文解釈(長文読解)
- 和文英訳
- 英文法(空所補充)
特に、複数の長文を読み解く必要があり、試験時間に対してボリュームが大きいのが最大の特徴です。
レベルは大学入試の二次試験レベルを目安にしましょう。
外国語試験(多肢選択式)の対策方法
この試験で最大の鍵となるのが「時間配分」です。
ボリュームの大きい長文読解に時間をかけすぎると、最後まで解ききれない可能性があります。
過去問演習を通して、「解きやすい文法問題から手をつける」「長文は設問を先に読んでから本文を読む」など、自分なりの時間戦略を確立しておくことが合格に直結します。
【航空管制官採用】二次試験の内容・傾向と対策
筆記試験の関門を突破した受験者を待ち受けるのが、面接が中心となる二次試験です。
学力だけでなく、航空管制官としての資質や人間性が厳しく評価されます。
| 試験科目 | 配点比率 |
|---|---|
| 外国語面接 | $$\frac{1}{12}$$ |
| 人物面接 | $$\frac{3}{12}$$ |
試験科目ごとに内容を詳しく見ていきましょう。
人物面接
航空管制官としての適性、コミュニケーション能力、そしてストレス耐性といった人間性を総合的に評価する面接試験です。
人物面接の概要
| 試験時間 | 20分 |
|---|---|
| 人数 | 1人 |
| 面接官 | 3人 |
人物面接の傾向
質問内容は、公務員試験で一般的なものと、航空管制官という職務に特化したものの両方から出題されます。
- ■ 一般的な質問:「志望動機」「自己PR」「学生時代に最も力を入れたことは?」「長所と短所」など。
- ■ 職務に関する質問:「航空管制官の仕事で最も大変だと思うことは?」「チームで働く上で大切にしたいことは?」「強いストレスを感じた時、どう乗り越えますか?」など。
単に流暢に話せるかではなく、回答の内容から「人命を預かる責任感」や「冷静な判断力」といった資質があるかを深く見られています。
人物面接の対策方法
付け焼き刃の対策が最も通用しない試験です。早期から準備を始めましょう。
- 徹底した自己分析:「なぜ数ある公務員の中で航空管制官なのか」を、自身の経験や強みと結びつけて、説得力を持って語れるように深掘りします。
- 官庁・業務研究:国土交通省のホームページや関連資料を読み込み、航空行政が抱える課題や航空管制官の具体的な役割・使命を正確に理解します。
- 模擬面接の反復:大学のキャリアセンターや公務員予備校、信頼できる友人などを相手に、模擬面接を繰り返し行いましょう。話す練習はもちろん、客観的なフィードバックをもらうことが非常に重要です。
外国語試験(英語面接)
ネイティブスピーカーと思われる面接官と1対1で、すべて英語で質疑応答を行う面接です。
試験の目的は、流暢な英語力ではなく「英語を使って意思疎通を図ろうとする姿勢」を見ることです。 そのため、質問内容は専門的なものではなく、日常会話レベルの簡単なものが中心となります。
完璧な文法や発音でなくても問題ありません。詰まっても笑顔で、知っている単語を使いながら積極的にコミュニケーションを取ろうとする姿勢が高く評価されます。
対策のポイント|オンライン英会話などで場慣れ
一番の対策は「場慣れ」です。 英語を聞き、英語で話すという状況に、心と体を慣れさせておきましょう。
オンライン英会話サービスは、手頃な価格でネイティブスピーカーと話す機会を作れるため、非常におすすめです。
また、大学に留学生やALT(外国語指導助手)の先生がいれば、積極的に話しかけてみるのも良い練習になります。
【航空管制官採用】三次試験の内容・傾向と対策
二次試験を突破すれば、合格は目前です。 最終関門である三次試験では、より実践的な適性と、心身の健康状態がチェックされます。
| 試験科目 | 配点比率 |
|---|---|
| 適性試験Ⅱ部 | 合否のみ |
| 身体検査 | |
| 身体測定 |
適性試験Ⅱ部
シミュレーターのような機器を用いて、航空管制業務への最終的な適性を判断する、より実践的な試験です。 この試験は点数化されず、A〜Dなどの段階評価で判定されます。
具体的な内容は毎年若干異なる可能性がありますが、過去には「画面上に表示される航空機(光点)を、音声による指示に従って、マウスやボタンで適切に操作・誘導できるか」といった検査が行われています。
複数のタスクを同時に、かつ正確に処理する能力が求められます。
この試験には、確立された対策方法は存在しません。 本番で最も大切なのは、事前にされる説明をしっかりと聞き、パニックにならず、冷静に課題へ取り組むことです。
ゲームセンターのシミュレーションゲームに挑戦するような気持ちで、リラックスして臨むのが良いでしょう。
身体検査・身体測定
航空管制業務を長期間にわたって安定して遂行できるか、医学的な観点からチェックするための検査です。合否のみが判定されます。
主な検査項目|視力・聴力などが重要
検査項目は多岐にわたりますが、特に重要視されるのは以下の項目です。
- ■ 視力:矯正視力で両眼とも1.0以上、かつ各眼0.7以上であることなど、詳細な基準があります。
- ■ 聴力:正常な聴力を有すること。
- ■ 色覚:色覚に異常がないこと。
- ■ その他:血圧、尿検査、胸部X線検査、心電図検査など、一般的な健康診断と同様の項目が含まれます。
視力については、裸眼である必要はなく、眼鏡やコンタクトレンズを使用した矯正視力で基準を満たせば問題ありません。
まずは人事院の「受験案内」に記載されている詳細な身体基準を必ず自分の目で確認してください。
視力や聴力などに少しでも不安がある場合は、試験の直前ではなく、早めに専門医を受診して自身の状態を正確に把握しておくことが大切です。
もちろん、日頃から十分な睡眠とバランスの取れた食事を心がけ、健康的な生活を送ることが最良の対策となります。
航空管制官採用試験に関するFAQ
最後に、受験生から特によく寄せられる、試験対策に関する質問とその回答をまとめました。
学習を進める上での参考にしてください。
Q.航空管制官採用試験の過去問(入試問題)はある?
人事院のホームページにアクセスし、「試験問題例」のセクションを探してください。そこから、航空管制官採用試験の過去問題をダウンロードすることができます。
▼以下の記事でも3年分を掲載しています。参考にしてください。
Q.航空管制官採用試験の合格点や平均点は?
他の公務員試験と比較してもやや高い水準ですので、苦手科目を作らず、全科目で7割以上の得点を目指して学習を進めるのが理想です。
▼詳しくは下記の記事でまとめています。
Q.合格に必要な勉強時間はどのくらいですか?
大学3年生の春〜夏頃から本格的に対策を始め、1年以上の期間をかけて準備を進める受験生が多いようです。
これはあくまで目安です。大切なのは時間数ではなく、質の高い学習を継続すること。まずは自分の現在の実力を把握し、そこから逆算して学習計画を立ててみましょう。
まとめ|航空管制官採用試験は難しいのか
本記事では、航空管制官採用試験の難易度が高い5つの理由と、一次〜三次試験までの具体的な内容、そして対策のポイントを徹底的に解説しました。
改めて、航空管制官採用試験は簡単な試験ではないことが分かったと思います。 しかし、その難しさの内実が「筆記の学力、英語力、特殊な適性、そして人間性まで、多角的な能力が問われる」ことだと理解できれば、決して対策のしようがない試験ではないことも見えてきたはずです。
一つひとつの試験の意図を正しく理解し、長期的な視点で計画的に対策を進めること。 それが、この難関試験を突破するための唯一かつ最強の戦略です。
まずは、この記事で紹介した人事院の公式サイトで過去問に目を通し、現在の自分の実力と、目指すべきゴールとの距離を測ることから始めてみましょう。
空の安全を守るという、誇り高く、やりがいに満ちた仕事があなたを待っています。 あなたの挑戦を、心から応援しています。

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